仕方がない

 
徘徊や迷惑行為がある お婆ちゃんがいた。
 
異食行為は無かったものの、とにかく便を隠したり あちこちに擦り付けたりしていた。
 
それで私達は昼夜を問わず〝臭い〟をたよりに
 
便を探し出す作業をよくしていた。
 
 
 
カーテンを開けると、ソコに便が置かれていたり
 
ベッドの下には泥団子よろしく 丸めた便。
 
 
ある時は、衣服の中に便がキレイに包まれて引き出しの中に入っていたり、
 
またある時は、箸箱の中にキッチリと収まっていたりと
 
ありとあらゆる所に隠されていて まるで宝探し状態(笑
 
 
 
そういった行為に ・・・ったくもう!と呆れたり
 
ご本人さんには言わないが えぇ加減にせぃ!と怒る者もいたが
 
不思議と そのお婆ちゃん自身に腹を立てる者はいなかった。
 
それどころか、皆から可愛いがられていた。
 
(年配の方に対し、失礼なのかもしれませんが ^^;)
 
 
 
ちょこんとした その小さな姿も含め
 
なんと言っても その人柄からだろう。
 
 
そのお婆ちゃんの口からは、他者の悪口は一切出てこない。
 
自分の欲求が満たされない時でも「嫌」と言う言葉は出て来るけれど
 
あくまでも、自分がしたくない事の拒否での意味でしか使わない。
 
 
 
日中にはないのだが、夜になると寂しくなるのか
 
よく私の事を 「お母さん」と言って 甘えてこられた。
 
 
居室から出て行こうとすると 決まって
 
お母さぁぁん。 どこ行くの? 行っちゃやだぁぁぁー と 哀しい顔をされる。
 
私とて、他にも仕事があるので1人に掛かりっきりになる訳にはいかない。
 
他にもやる事があるから 行かないと・・・ね? と言うと
 
やだ やだ やだぁぁぁー と 身をよじって嫌がる。
 
そんな時、私はいつも また後で来ますから・・・ね? と言う。
 
すると うん♪ じゃーまた後で と それはもう嬉しそうな笑顔でバイバイと手を振られる。
 
 
 
そして、やる事やって居室へ戻ると
 
そのお婆ちゃんは ベッドの真ん中にちょこんと座り待っている。
 
時には、そのままの姿で横になり 丸くなって眠っている。
 
眠る体勢に整え 布団を掛けると うっすらと目を開け 「お母さん ありがと」
 
笑顔を浮かべて 再び眠られる。
 
 
起きている時は 「お母さぁぁん。 またどこかへ行っちゃうの?」 と 不安を訴えてこられるが
 
また部屋からは出て行くけど、今夜はずっといますから・・・ね? もう遅いから 寝ましょうね と
 
ベッドに腰掛け、子供をあやすように背中をポンポンと暫く叩いていると
 
安心するのか 微笑みながら眠られる。
 
 
夜勤時は、毎回その繰り返しだった。
 
私にしたら手は掛かるけど、このお婆ちゃんが可愛くて仕方がなかった。
 
 
 
 
でも、ご家族さんである子供さん達にとっては 私達は〝敵〟だった。
 
 
便隠しや擦り付け行為。 徘徊する・・・といった事が信じられず
 
私達が嘘を言って 言い掛かりをつけていると思っておられた。
 
 
それどころか、認知症になっている事さえ信じようとはせず 私達を非難されていた。
 
自分達の親の、今の〝生活〟を看ていないのだから無理もない。
 
例えそうであっても〝信じたくない〟という気持ちが そうさせるのかもしれない。
 
 
 
他にもご家族さんには、色々と不満があったようだ。
 
でもそれは仕方がない事。
 
 
〝ここ〟はグループホームでもなければ 施設でもない。
 
あくまでも〝共同生活〟をする場なだけ。
 
 
 
満足のいく介護をするには、1人に対して3人の〝手〟がいる
 
・・・と云われているのだから 不満は沢山出て来るだろう。
 
それは何処へ行っても同じ事だ。
 
 
 
 
 
その後、「こんな所に 入れてはおけない!」と 怒りを露わにして お婆ちゃんを他所へ移された。
 
今は、認知症対応の特養(特別養護老人ホーム)で生活されているのだが・・・
 
迷惑行為のキツさから、何も無いガランとした部屋に閉じ込められて
 
夜、寝る時に 布団を部屋に持ち込まれるだけ・・・という生活を送っている。
 
 
 
特養にしても、そういう措置をとらねば面倒を看る事は出来ない・・・というのも解かる。
 
解かるけれど、やるせない。
 
 
ご家族さんは、今では後悔されているらしい。
 
「こんな事なら、前(私達の職場)の所の方が良かった」・・・と。
 
色んな事情があって、お婆ちゃんはもう〝ここ〟へは戻れない。
 
 
ご家族さんにしても 親を想ってした事の結果が こうなってしまっただけ。
 
誰が悪いワケでは無く、仕方がない事。
 
 
 
仕方がない・・・仕方がない・・・ でも やるせない・・・。
 
 
 
 
 
 
でも・・・ なんで私が 「お母さん」 だったんだろ? お婆ちゃんの母親に 似てたのかなぁ?
 

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