望み

 
 
仕事上、とある処置にて相手の方を抑えつけなければ出来ない処置がある。
 
相手の方は、私より頭一つ分背が高い大柄な男性だ。
 
痛みを伴う処置なので、その男性は暴れて抵抗される。
 
時には、殴られてしまうスタッフもいるようだ。
 
 
 
 
女性スタッフ1人での処置の場合、力がないのでベッドに横たわるその男性の胸元に乗って処置をする。
 
でも何故だ? 私には不思議でならない。
 
その方の足は殆んど動かない。 よって、手からの攻撃にさえ気を付ければ済む事。
 
 
 
 
私が一人で処置をする際、胸元に乗らなくても手と腕で抑え込める。
 
痛いんじゃー! ヤメんかぃ! 殴ったるー!
 
もがき始めると私は処置の手を一旦止めて 相手の男性の顔を至近距離にて睨み付けながら言う
 
勿論、手を抑えつけたまま。
 
○○さんは男でしょ!? 男が女に暴力を振るっていいと思っているんですか!?
 
男の○○さんの力に、女の私が敵う訳ないでしょ!? んなもん、弱い者いじめじゃないですか!
 
○○さんは、弱い者いじめしかできない男なんですか!
 
 
 
抵抗する力が少し弱まる。 その隙に再び処置を続行。
 
うがぁぁぁー! このボケ! あほぅ! 痛いんじゃ!このボケがぁぁぁー!
 
はい。 私はボケであほです。 ですから、ボケの私に協力して下されば早く終わります。
 
一瞬たりとも、相手の方の目を離さず見据えて話す。
 
 
 
ヤメんかぃ! 痛いんじゃ!このボケ!アホ!カス!
 
何を言われても私はヤメません。 これをしておかないと○○さんは死ぬんですよ?
 
痛いでしょうが、私もやりたくてやっているんとちゃいますから! ○○さんが死ぬとこなんか、見たくはありませんからね!
 
うるさいんじゃ! このボ…うがあぁぁぁー!
 
叫びながらも、手に入る力が弱まっている。
 
 
 
悪態を付きながらも、心のどこかでは解ってくれているからこそ
 
女の私であっても、手だけで抑えつける事が出来るんだと思っている。
 
 
 
いくら暴れる相手であっても「会話」は必要だと私は思っている。
 
 
 
 
実際問題、私自身も嫌がる相手を抑えつけてまでしたくはない。
 
でも、その処置をしておかないと生死に関わる事だからこそやっている。
 
何よりも、その方自身が生きる事を望んでいるから。
 
 
 
処置が終わった後
 
この無愛想が! はよどっか行け!
 
は~い♪ ご協力感謝です♪ では、これにて失礼致します♪
 
おぉーい!
 
はい。 何か御用でも?
 
まだ、おったんかぃ! はよ出て行け!
 
は~い。 失礼しま~す♪
 
おぉーい!
 
どうされました?
 
うるさいわぃ! 
 
お疲れになったでしょ? ゆっくりとお休みになって下さいね。 お休みなさい♪
 
ん…寝る。
 
 
 
 
 
 
この方の事が、可愛く思えて仕方が無い。
 
 

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